聖書ファンタジーと周辺ジャンルとの関係
目次 Contents
このシリーズでは概論として次の内容を整理しています。
③聖書ファンタジーについて
④間違いと向き合う
本記事では、いよいよ『聖書ファンタジー』というジャンルについて掘り下げていきます。
用語定義を確認し、関連するジャンルとの比較を行いながら、聖書ファンタジーに取り組む意味や方向性を、あなたなりに見つけていただければ幸いです。
聖書ファンタジーとは?
聖書ファンタジーとは、聖書をあくまでも聖典・神の啓示の書として読み、聖書の世界観・価値観を全面的に受け入れたうえで、その世界線上に存在する人間性や人生観、文化、風俗、自然環境、経済などの天地万物を考察するために作られた創作ジャンルを指す。
「聖書が語る世界観・価値観の延長線上にある未来と人間性を思考する、仮想フィールド」のこと。
聖書ファンタジー作品は、聖書に記された神の啓示、福音、教理、世界観を“改変せずに”創作世界に適用し、物語として展開することを目的とする。
単なる宗教モチーフの引用ではなく、聖書を聖典と認め、その字義的な内容を信仰に基づいて受け止めた上で、創造的に拡張する姿勢が根幹にある。
従来のキリスト教的なモチーフを使っただけの聖書インスパイア・ファンタジーとは一線を画し、信仰者によるファンタジー創作を成立させることを目指す。
また、「聖書ファンタジー」は「千年王国ファンタジー」を包含するジャンルである。
上位概念として「神学ファンタジー」がある。
Wry Wonders用語定義 聖書ファンタジー(Biblical Fantasy)よりhttps://wrywonders.com/codex/lexicon/lexicon-biblical-fantasy/
聖書ファンタジーの諸条件
①聖書の福音、正統な神学を、創作物のバックボーンである世界観、価値観の中心に据えたファンタジー作品のこと
②「聖書の言ってることが全部本当だったら?」という視点での仮想フィールドを設定し、その枠組みの中で思想実験を行う創作行為。
③聖書が敢えて沈黙している事柄についても考慮に入れる。沈黙していることを暴露するのではなく、「沈黙している」という事実も考察に含める。
④原則としてはプロテスタント福音派の「字義通りの聖書解釈」の見地に立つ。
⑤「聖書はファンタジー/エンタメ/神話/オカルトである」ことを証明するための創作活動・作品ではない。
⑥神学ファンタジーほどには神学的な厳密さを求められない。信仰とエンターテインメントの両立を目指す。
聖書と聖書ファンタジーの関係性
いうなればサッカーとサッカーのルールの関係。
サッカーボールを手に持って走ったとき、それはサッカーではなくなる。
つまりサッカーをサッカーたらしめる原則を失えば、サッカーは成立しない。
選手や監督は、サッカーのルール・枠組みの中で最大限に面白いゲームを作り出すよう知恵を絞る。
例えば「オフサイド」というルールを変えることはできなくても、「オフサイドトラップ」という新しい戦術を生み出す自由はある。
戦術を編み出すためには、サッカーへの深い理解と熱中が必須となる。戦術はゲームをもっとおもしろく、複雑に、奥深くする。観戦者は洗練されていくゲームを観て楽しみ、サッカーゲームのみならず、観戦さえ文化になる。サッカー観戦の周辺にも各種の文化や創作行為が派生していく。
聖書ファンタジー作家にも同じことが言える。
聖書の原則・神学を無視すれば、ただの創作行為と変わらない。
聖書や福音を改変することはないが、牧師や神学者でさえ「その手があったか!」と驚くストーリーを作り出すことができるし、それを目指すことが面白さだと言える。
聖書ファンタジーを生み出すこと、読むこと、読書の周りにある文化を創出していくことができるはずだ。
なぜ聖書ファンタジーが必要か
この問いは以下のように言い換えることができる。
「なぜ聖書ファンタジーのジャンル創設と普及を試みることが、
①キリスト教会
②信仰者
③非信仰者を含む作家・読者
にとって重要なのか」
①キリスト教会にとっての意義
現代人はインターネットから情報を収集する。
インターネット空間(Google検索)の情報体系が、ひとつの「現実」になっている。
Google検索上では、2025年5月まで「聖書ファンタジー」についての明確な定義がなく、サブカル系ジャンルの雑学本が検索結果上位に表示されていた。
これを見た検索者は、「聖書はオカルト・サブカル的な読み方ができ、その活動の延長線上で出版活動が行われ、経済圏が成立している」という認識を得るはずだ。
しかしクリスチャンとしては聖書は誤りなき神の啓示の書であり、ファンタジー・神話・オカルトではない。
聖書の宣教命令に従えば、インターネット空間経由であってもイエス・キリストに出会ってほしいという思いは変わらない。
「聖書ファンタジー」の福音的・神学的な定義を確立し、定義の保守・管理を教会が主導することで、まずは「非信仰者による、聖書ファンタジーの非信仰的な定義づけと普及」を防止することができる。
同時に、異端による意図的な意味操作を防止することができる。
(なお、“聖書ファンタジー”の検索結果については、Wry Wondersの用語定義よって福音的・神学的な観点での意味が検索結果の上位に表示されるように改善されている)
②信仰者にとっての意義:新しい献身の形を確立する
日本ではクリスチャンはマイノリティである。世界的に見ればマジョリティでも、国内ではマイノリティであるというねじれが、聖書にまつわるカルチャーの位置付けを難しくしている。
マイノリティであっても、熱心な信仰者は日々生まれてきており、献身の思いを強くしている人々がいる。そういった方々に対して、献身の十分な方法論・ロールモデルが確立されているとは言えない。
つまり、専門的な聖書神学を身に着けても、神学者や牧師になる以外に就職先がない。女性は特に、教理的な理由から、教会内でリーダーシップをとるのはさらにハードルが高い。
「聖書ファンタジー」というジャンルで作品が多く生み出され、完成度に一定の評価が集まり、書籍化や映像化がなされることで、信仰者による経済圏を創出することができる。
③作家・読者にとっての意義
現代の、特に日本においては、「聖書の世界のリアリティ」を感じることは難しい。
具体的には古代イスラエルの文化や、「信仰者に見えているもの」を追体験する情報・手段が限られている。
ファンタジーやストーリーテリング・キャラクター設計の力を使うことで、聖書の構造・文脈・価値観をあらゆる視点から示し、読者が追体験することができるようになる。作家であれば、非信仰者であっても、創作を通して聖書の深みに触れるきっかけを得る。
ストーリーの中では、読者は日常・社会常識をいったん脇において、物語中のルールを比較的安易に受け入れることができる。
仮想の世界であっても、聖書の無謬性や完全性、ひいてはキリスト・神の栄光に出会う体験を得ることができるはずだ。
作品そのものによって改心するというよりは、「創造主に対する興味関心」を喚起することができるならば、その作品は聖書ファンタジーとして成功していると言っていい。
信者にとっては、聖書的な視点に立った創作物には霊的な安心感を覚えるはずだ。登場人物を通して、信仰上の思索を深めるきっかけが得られ、励ましを受けられる。
また、聖書ファンタジーの手法が確立すれば、より霊性とエンターテインメント性・あるいは芸術性を両立させた作品が生まれてくる可能性が広がる。
そうすれば、少ない選択肢の中から霊的なコンテンツを選ぶ不自由さが緩和されるし、性的すぎる・暴力的すぎる一般的なコンテンツから距離をとりつつ、安心して娯楽を持つことができる。
関連する3つのジャンルの比較。ファンタニクルとの関係性
「聖書ファンタジー」には関連するジャンルが存在する。
下位概念として「聖書インスパイア・ファンタジー」があり。上位概念として「神学ファンタジー」がある。
聖書インスパイア・ファンタジー
聖書インスパイア・ファンタジーとは、聖書の物語・象徴・人物・概念などにインスパイアされているが、神学的整合性・福音的枠組みの精査を目的としない創作物のことである。キリスト教文化から着想を得たような精神性・モチーフ・キャラクター・世界観が出てくるが、信仰的・神学的整合性は問わず、作者によるカルチャー・マッシュアップや、エンターテインメント性を重視する。
神学ファンタジー
神学ファンタジーとは、聖書の世界観、物語構造、神学的テーマに根ざした空想物語の創作ジャンルであり、福音的・組織神学的厳密性を基盤とする。
抽象的・形而上的であった思弁神学(Speculative Theology)に、肉体性(物語・キャラクター・世界)という形式を与える実存的行為である。
Wry Wonders用語定義 神学ファンタジー(Theological Fantasy )よりhttps://wrywonders.com/codex/lexicon/lexicon-theological-fantasy/
各ジャンルを比較した表が以下である。
聖書インスパイア・ファンタジー、聖書ファンタジー、神学ファンタジー
| 項目 | 聖書インスパイア・ファンタジー | 聖書ファンタジー | 神学ファンタジー |
| 定義レベル | 聖書の物語・象徴・人物・概念などにインスパイアされているが、神学的整合性・福音的枠組みの精査を目的としない創作物 | 字義通りの聖書解釈に基づき、聖書の世界観・価値観の延長線上にある物語世界 | 組織神学に基づき構築された体系的世界 |
| 神学的忠実度 | 低。聖書っぽい要素が出るが、信仰的・神学的整合性は問わない | 中〜高。聖書の物語、概念、象徴を物語の基盤とするが、教派間の解釈余地を許容する。 | 極限まで高い(組織神学に準拠) |
| 創作自由度 | 高。聖書に明示的 or 暗示的なリファレンスがある(天使、創世、終末、罪と救い etc.)しかし、組織神学に準拠しない(独自宗教観OK、寓話OK、解釈の自由が広め) | 一部に余白あり(預言・異象の解釈次第) | 極めて制限的(ルールが組織神学をベースとする) |
| 目的 | エンターテインメント性や作者の自己表現を重視 | 聖書的世界観をフィクション化して楽しむ | 思弁的神学を物語によって吟味・証明する |
| 読者層 | ライトノベルやファンタジー・歴史・宗教ものが好きな一般読者 | キリスト教文化に興味・親しみのある層 | 福音派・神学愛好家・終末論オタク |
| ジャンル比喩 | ジャンル問わず・または横断的 | 一般的SF | ハードSF(ロジックの厳密性あり) |

ファンタニクル
ファンタニクル(Fantanicle、幻想古典)とは、創作・文芸ジャンルの一つである。古典文学の世界線上に成立するファンタジー作品のことを指す。
火水イリイによって命名・定義された。日本語表記は幻想古典。
ファンタジー(Fantasy)の創造性と、年代記(Chronicle)の重厚な構造を融合し、神話・古典に基づいた世界観と、幻想文学としての詩的自由を併せ持つ作品を指す。歴史的名作の世界観を引き継ぎつつ、空想科学や寓意的要素を駆使し、ファンタジーとして再構築する。
単なる古典の翻案ではなく、原作の文学的構造を踏まえたうえで、解明されてない余白に独自の物語を紡ぐことが特徴となる。
Wry Wonders用語定義 ファンタニクル(Fantanicle)より
https://wrywonders.com/codex/lexicon/lexicon-fantanicle/
なお、ファンタニクルの定義に含まれる「古典」とは、原則的にパブリックドメインの作品を対象としている。(パブリックドメイン:著作権などの知的財産権の保護期間が満了したり、権利者が放棄したりしたことで、誰でも自由に利用できる状態になった著作物や作品のこと)
クリスチャンファンタジーとファンタニクル
聖書ファンタジーと神学ファンタジーは、キリスト教信仰を土台・存在意義としているが、ファンタニクルは出典に思想的な限定をしない。ダンテの神曲でもいいし、ギリシャ神話でも、古事記ファンタニクルでも成立しうる。
聖書ファンタジーは「古典:聖書」の世界観・価値観の延長線上に成立させるファンタジー作品なので、ファンタニクルである。
聖書インスパイア・ファンタジーも、聖書の世界観の引用要素が強ければファンタニクルに属するが、作者による解釈の度合いによっては通常のファンタジー、ライトノベル、フィクション作品となる。
神学ファンタジーも、聖書ファンタジーと同じ理由でファンタニクルたりうる。しかし神学ファンタジーの目指すところは「福音的・組織神学的厳密性」なので、「古典としての聖書」に「現代までの神学研究」の反映・検証を図ったうえで創作行為を行うという側面がある。その視点で考えた場合、厳密性を高度に追求した神学ファンタジーは、それ自体が文芸的に独立したジャンルであると考えることもできる。


「神学ファンタジー」「聖書ファンタジー」「千年王国ファンタジー」の位置関係
千年王国ファンタジーとは、ヨハネの黙示録 第20章に記された「再臨したキリストが復活の聖徒と共に統治する、地上に実現する千年間続く王国」を字義通り受け止め、その神学、構造、霊性、終末観をベースに据えたファンタジー世界観である。
単にキリスト教的なモチーフやキーワードを配した世界観でも、荘厳で神話風というだけの装飾でもなく、千年王国論をバックボーンとすることが定義要件となる。
Wry Wonders用語定義 千年王国ファンタジー(Millennial Kingdom Fantasy)より
https://wrywonders.com/codex/lexicon/lexicon-millennial-kingdom-fantasy/
千年王国ファンタジーは、広義には聖書ファンタジーのサブジャンルである。しかし作品の根幹となる千年王国論の厳密さによっては、上位概念である「神学ファンタジー」に属する。




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